堤と同様に十分な防波機能を有することはもちろん、人工島内の施設及び景観とも調和したものが必要とされた。そこで、この防波堤については、一般市民が自由に出入りして、安全に集い、憩い、散策でき、かつ、景観上も優れた親水性防波堤として整備することとなった。
そのためには、防波堤の設計段階において、かなり詳細な「親水性」及び「景観」の検討を行う必要が生じた。すなわち、従来の防波堤に対して行われてきた設計と景観に配慮した設計を結び付けることが不可欠となった。防波堤に人々の立ち入りを許し、かつ景観にも優れたものとするために、技術的な観点から、以下のような問題点が考えられた。
?従来、景観に配慮した設計の対象として考えられてこなかった防波堤という特殊な構造物について、どのように景観設計を行うか。
?景観設計によって防波堤構造、特に上部工部分に変更、あるいは従来の防波堤にはなかった形状の上部工の設置が必要となる可能性がある。そのような場合において、防波堤としての本来の機能が損なわれることがないか。
?人々の立ち入りを前提とするため、利便性を確保するとともに、十分な安全性を確保する必要性があるが、防波堤の上部工の形状からどのように対応することができるか。
我が国でも初めてと考えられるこのような親水性防波堤の検討に当たり、特に上記?で述べた景観設計については、大阪大学工学部環境工学科笹田研究室の協力を得て、コンピューターグラフィックス(CG)を用いた解を試みた。また、?で述べた上部工の形状と防波堤、本来の機能については、基本設計の段階で水理模型実験等を行うことで確認することとした。さらに、?の安全性については、上部工形状で十分配慮するとともに、景観設計に用いたCGによって、視覚的にも安全性を確認することとした。
2. 基本設計
2−1. 親水性防波堤に求められる条件
和歌山マリーナシティで検討された親水性防波堤に求められる条件は以下のとおりである。
?プレジャーボート等の小型船舶の利用を対象としているため、防波堤前面の反射波を低減する目的から消波構造とする。
?異常波浪時の港内静穏度を十分確保(異常波浪時の港内波高を0.5m以下)する。
?防波堤を市民が散策することができる。
?市民が親しみをもてる形状・デザインとする。
?十分な安全対策が図られていることとする。
?周辺景観との調和が図られていることとする。
このうち、?〜?の検討に当たる際の具体的な視点をTable−1.に示す。
Table−1. Basic Condition for Water−affinity Breakwater
2−2.上部工の基本形状
上部工形状については様々なアイデアが考案されたが、以下に示すような理由でダブルデッキ構造とした。
?ダブルデッキ構造とすることによって、利用空間が広く確保できる。
?上段デッキが日除け、しぶき除け、風除け、雨除けの役目を果たし、機能面の効果が大きい。
?上段デッキからは、港外港内両方へ開けた眺望が楽しめるとともに、下段デッキからは港内側への親水性が楽しめる。
?急な高波浪時においても、港内側を利用することによって、安全に陸地部まで歩いて避難できる。
?縦スリット消波タイプケーソンを採用する場合、堤体の港外側に遊水部を設けるため、堤体の重心がかなり港内側へ偏心する。しかし、ダブルデッキ構造として港内側の上部を切り欠いたような形にすることにより、上部工重量の大部分を港外側遊水部に集中させることができ、堤体企体のバランスが改善される。
Fig−1.にダブルデッキ構造を示す。
Fig−1.Double Deck Structure
また、直線を基調とした上部工(ダブルデッキ構造)の所々にベランダや階段等を設け、景観や利用性に配慮
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